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最高裁判所第三小法廷 昭和55年(オ)105号 判決

上告人

学校法人 富士見丘学園

右代表者理事

小野ちゑ

右訴訟代理人

島田徳郎

瀧澤幸雄

被上告人

亡宮迫武藏訴訟承継人

宮迫オノリ

右訴訟代理人

和田敏夫

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人島田徳郎、同瀧澤幸雄の上告理由第一点について、

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

同第二点について

原審の適法に確定した事実によれば、学校法人沼津北学園の寄附行為には、借入金をするにつき評議員会の議決を要する旨及び理事の三分の二以上の同意がなければならない旨の規定があるが、同学園は、右寄附行為所定の手続を履践することなく、武蔵野土地開発株式会社から原判示の金員を借り入れたというのである。右寄附行為の規定は同学園の理事の代表権に加えた制限と解するのが相当であるから、右金員借入れについて私立学校法四九条の規定により民法五四条の規定を準用しこれを有効であるとした原審の判断は、正当として是認することができ、また、前記武蔵野土地開発株式会社の代表取締役である被上告人が、右寄附行為所定の制限があることを知らず、かつ、これにつき無過失であつたとした原審の認定判断は、その挙示する証拠関係に照らして是認できないものではない。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(横井大三 伊藤正己 木戸口久治 安岡滿彦)

上告代理人島田徳郎、同瀧澤幸雄の上告理由

第一点 〈省略〉

第二点 原判決は理由不備または審理不尽の違法がある。

原判決はその理由において「北学園寄附行為には借入金(当該会計年度内の収入を以て償還する一時借入金を除く。)をするには、①評議員会の議決を要する旨の規定(第一四条)及び②理事の三分の二以上の同意がなければならない旨の規定(第二八条)の存することが認められ、北学園の訴外会社に対する前記の金員借入は、その回収及び金額から見て、当該会計年度内の収入を以て償還する一時借入金に該らないことが明らかであり、かつ弁論の全趣旨によれば各借入につき北学園評議員会の議決もしくは理事の三分の二以上の同意のなかつたことが認められるところ、右各規定の趣旨は、北学園代表者の代表権を制限したものであることはいうまでもないから、本来訴外会社、北学園間の金銭貸借は無効であるが、私立学校法第四九条、民法五四条により、もし訴外会社が北学園に対し前記の各貸金をなすに当り、北学園寄附行為に右制限規定の存することを知らなかつたとすれば、北学園は訴外会社に北学園理事長小野正実に金員借入の権限がなかつたと主張することができず、従つて北学園、訴外会社間の金銭貸借は有効といわなければならない筋合である。ところで当審における被控訴人本人尋問の結果によれば、北学園理事に就任した昭和四七年六月は格別少くとも被控訴人は右各金員を北学園に貸付けるに当つては、右制限規定の存することを知らなかつたことが認められ、これに反する証拠はないから、結局被控訴人主張の金員貸付及び相殺契約は有効であり、延いて控訴人主張の債権譲渡契約解除の抗弁は理由なきに帰するといわねばならない。なお控訴人は被控訴人が右制限規定のあることを知らなかつたことについて過失があると主張するが、この事実を認めるに足りる証拠はない。」旨判示した。

然しながら判示①の寄附行為第一四条については私立学校法第四二条第一項第一号にこれと全く同旨の規定があり、同法によつて既に理事の代表権が制限されているからこのような場合には所定の要件が具備しない限り初めから代表権は存在しないものと解され民法第五四条の適用はなく無効といわざるを得ない(大判大正一五、一二、一七民集五巻八六二頁)。

唯だ取引の相手方である第三者は表見代理に関する民法第一一〇条の類推適用により保護されることにあるに止まるものというべきである(最判昭和三四、七、一四民集一三巻七号九六〇頁)。

然るに被上告人は昭和四六年一二月一三日以降上告人学園の理事であり昭和四七年六月一日以降は訴外学園の理事であつて右制限規定のあることを知つていた者であるか知らなかつたとすれば過失ある者であるから被上告人は昭和四六年一二月一三日以降または昭和四七年六月一日以降代表権ありと信ずべき正当事由のないことはいうまでもない。

次に判示②の寄附行為第二八条は借入金について理事会の特別決議を要する旨を定めた規定であるから、右の理事の代表権に対する制限であり、民法第五四条の適用があり、善意の第三者には対抗し得ない反面悪意の第三者には対抗し得るものである。また善意の第三者の善意については重大な過失がないことを要するものと解される(最判昭和四七、一一、二八民集二六巻九号一六八六頁)。

然るに被上告人は昭和四六年一二月一三日以降上告人学園の理事であり昭和四七年六月一日以降は訴外学園の理事であつたから右制限規定のあることを知る「悪意の第三者」であるというべきである。

仮りに悪意でなかつたものとしても、理事であれば当然右制限規定の有無を知り得た筈であるから昭和四六年一二月一三日以降または昭和四七年六月一日以降は知らなかつたことにつき重大な過失があり同条に所謂「善意の第三者」に該当しないものといわざるを得ない。

従つて少くとも別表39乃至50または45乃至50の貸付については無効というべきである。よつてこれを有効とした原判決は理由不備又は審理不尽の違法があり右違法は判決に影響を及ぼすこと明らかであるから破棄を免れない。

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